赤水と天文学 功績紹介 顕彰会刊行 西洋知識 地図に活用 茨城・高萩

茨城新聞
2024年6月12日

日本で初めて経緯線の入った地図を完成させた茨城県高萩市出身の地理学者、長久保赤水(1717~1801年)の天文学者としての功績を伝えるため、長久保赤水顕彰会が「天文学史と長久保赤水」を刊行した。古代から江戸時代までの天文学史を概観した上で、赤水の立ち位置や業績を紹介。同顕彰会は「地図制作に天文学の知識を用いたことを知ってほしい」としている。

同書はアマチュア天文家で同顕彰会の理事を務める川口和彦さん(70)=同市=が執筆。同顕彰会発行の川口さん著作は「長久保赤水と山本北山」「長久保赤水の天文学」に続く3作目で、2022年の秋ごろから作業に取りかかり、今年3月に刊行した。

前半は天文学の誕生した経緯や世界四大文明との関わり、東アジアにおける天文学の歴史など赤水の天文学のルーツを紹介。川口さんは「赤水は主に中国の儒学に基づく天文学を基礎としている」と指摘する。

ただ、儒学者でもあった赤水は科学的な西洋天文学も「十分に学び、自分のものにしていた」と力説。「西洋天文学を地図制作に実用的に生かしたことが功績」と強調する。その根拠として、中国経由で日本に入ってきた西洋天文学の解説書「天経或問(てんけいわくもん)」への書き込みなどを挙げ、著書で「『経度』の概念も正確に理解し、これが赤水図に反映されていたことは明らか」と結論付けている。

大衆も愛用した回転式星座盤付きの天文学に関する赤水の著作「天象管闚鈔(てんしょうかんきしょう)」にも触れ、初版とは別に異版があると指摘し、その違いについての考察が記述されている。

このほか、農政論者としての赤水にも言及。農民への徴税について、藩主に意見したことなどを挙げ、「天文学者として、幅広い系統の天文学を学んだからこそ、広い視野を持ち、農民の目線にも立てたまれな学者」と話す。

3000部発行し、県内の学校や全国の図書館などに2000部超を寄贈。1冊1100円で、市内の書店や同顕彰会が郵送などで販売する。問い合わせは同顕彰会の佐川春久会長(電)090(1846)6849。