「すごく愛らしい人」 エリック・カールさん追悼 絵本合作のいわむらさん(益子在住)

下野新聞
2021年6月28日

 世界的な人気絵本「はらぺこあおむし」などで知られる米国の絵本作家エリック・カールさんが5月23日、91歳でこの世を去った。「すごく愛らしい人」。20年前、出会ってすぐに意気投合し、合作で絵本を制作した益子町在住の絵本作家いわむらかずおさん(82)は当時を振り返り、故人をしのんだ。那珂川町のいわむらかずお絵本の丘美術館では一角に追悼コーナーを設け、カールさんの人柄がうかがえる貴重な資料を公開している。

 カールさんは生き物を描いた絵本を得意とし、アオムシが果物などさまざまな物を食べて美しいチョウになる「はらぺこあおむし」を1969年に出版。70カ国語以上に翻訳された。

 いわむらさんはカールさんを、「世界中の子どもたちに愛される絵本を出してきた。すごいこと」とたたえる。「はらぺこ-」は、ページに穴が開いている仕掛けなど「楽しめる要素がいっぱいある」といい、物語に関しても「アオムシが成長してチョウになるだけで魅力的なテーマなのに、アオムシが食べないような、子どもが大好きなケーキなんかを食べちゃう」と目を細めた。

 カールさんといわむらさんの出会いは2000年1月。同美術館で2人展を開くことになり、トークショーが催された。絵本が好き、子どもが好き、自然が好き。生活環境や背格好まで共通点は多く、話は弾んだ。

 合作の話はカールさんから提案があった。左からカールさんが、右からいわむらさんがそれぞれ描き、真ん中で終わる形。そうしたアイデアは以前から温めていたという。

 友達に会いに行く物語は、いわむらさんが考えた。日米それぞれの仕事場からメールやファクス、手紙で意見交換を重ね、半年後の6月、いわむらさんが渡米。カールさんは「スタジオ(仕事場)でずっと待っていられなかったよ」と最寄りの空港まで自ら車を運転し、迎えに来てくれた。

 完成した合作絵本は「どこへいくの? To See My Friend!」。カールさんはパンフレットに、この絵本は「“友情を探し求める”話」だとし、「エリック・カールといわむらかずおの話」である、とも書いている。

 いわむらさんにとっては唯一の合作絵本。同美術館に設けた追悼コーナーには「エリックさんと出会い、ふたりで絵本をつくったこと、とても楽しく、夢のような幸せな時間でした」とのメッセージを寄せた。

 カールさんの「愛らしさ」を感じさせる、こんなエピソードがある。いわむらさんと一緒に、建設中の那珂川町馬頭広重美術館を見学した時のこと。カールさんは、ヘルメットの内側の白い紙帽子を「もらっていいか」と手に取って頭に載せ、「有名なシェフみたいだろう?」と話すと、被り方を変えて「お医者さんみたいに見えるだろう?」とおどけてみせた。

 人を笑わせようという以前に「自分自身が楽しむ」という、いわむらさんとも共通する姿。「絵を描くことがとても好き、子どもが好きというのが絵に表れている」だけでなく、人柄にも子どもたちが引き付けられるのだという。

 追悼コーナーには、合作絵本の制作時にカールさんから届いた試作本や手紙、2人の写真などを展示している。現在開催中の「とっくんトラックぶぶー展」が終わる11月28日まで。

 【プロフィル】いわむらかずお 東京都生まれ。東京芸術大工芸科卒。1975年、益子町に移り住む。83年に始まった代表作「14ひきのシリーズ」は国内外で1千万部を超えるロングセラー。98年、いわむらかずお絵本の丘美術館開館。

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