小澤征爾さん所有彫刻展示 大理石で構成、抽象作品 親友・藤江孝さん作 水戸芸術館 茨城

世界的指揮者で水戸芸術館(茨城県水戸市五軒町)の館長を務めた小澤征爾さん(2024年2月、88歳で逝去)所有の彫刻が、同館に寄贈された。大親友だった彫刻家、藤江孝さん(1926~91年)が手がけた大理石の抽象作品で、同館の関係者は「見る人によって、小澤さんの躍動的な指揮ぶりや気さくなお人柄を想像させる。見守られているように感じ、喜びと同時に気が引き締まる思い」と話している。
藤江さんは京都府生まれ。慶応大工学部卒。在学中から彫刻や映画に関心を持ち、卒業後は岩波映画の嘱託となり、記録映画を製作した。65年に渡仏し、彫刻制作に専念。石や木を素材に角形や丸形のパーツを構造的に組み上げ、人との親和性を感じる造形を得意とした。
同館によると、小澤さんとの交流は小澤さんの長兄で彫刻家の小澤克己さんを通して始まったという。「芸術を追究する藤江さんの無垢(むく)な人柄に、小澤(征爾)さんは引かれたのだと思う」(同館)
小澤さんの長女、征良さんは、著書「おわらない夏」で、藤江さんのことを次のようつづっている。
〈タカベェ(藤江さん)は父の大親友でお兄さん分のような人。私が生まれたときに父に寄りそわれた母がその場で電話をかけた3人のうちのひとり。(中略)自分の彫刻をしたいから、といってパリに30年以上住んでいた。自分のしたいことをして、それを死ぬまで貫き通した人だった〉
寄贈された彫刻は同館入り口近くに設置された。高さ113センチ、幅93センチ、奥行き約53センチ。重さは約500キロ。作品のタイトルや制作年は不明という。大理石の五つのパーツで構成され、どこか人と人の穏やかな融和を想起させる。
同館によると、彫刻は当初、デザイナーの森英恵さん(1926~2022年)の米ニューヨーク事務所に飾られていた。事務所が畳まれるのを機に、長年親交のある小澤さんに贈られたという。森さんは同館を運営する水戸市芸術振興財団の理事長を25年間務めた経緯もあり、小澤家から同館への寄贈は「二つの縁」が重なったことになる。
彫刻の除幕式は水戸室内管弦楽団(MCO)定期演奏会初日の5月16日、同財団の福田三千男理事長、同市の小田木健治副市長が出席して開かれた。
あいさつで、福田理事長は「小澤さんは『芸術を身近に』の理念で芸術館の運営に尽力された。ゆかりの彫刻が設置され、本人に見守られているかのよう。小澤さんの思いをしっかり受け継いでいきたい」と語った。