オムニバス映画「ブルーハーツが聴こえる」 前橋で24日から公開

上毛新聞
2017年6月14日

ホラー映画の名手、清水崇監督(前橋市出身)とコメディー群像劇を得意とする飯塚健監督(渋川市出身)。両氏を含む6監督が参加したオムニバス映画「ブルーハーツが聴こえる」が24日から、ユナイテッド・シネマ前橋で公開される。初めて地元で撮影した清水監督と、渋川が舞台で来年公開予定の映画「榎田貿易堂」を撮影した飯塚監督が、初めて自作への思いやロケ地・群馬の魅力を語り合った。(聞き手・和田早紀)

 

2監督初対談
「少年の詩」 清水崇監督 

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「ハンマー(48億のブルース)」 飯塚健監督

▼思い

 ―「ブルーハーツ―」では、清水監督がヒーローに憧れる少年と母を巡る「少年の詩」、飯塚監督が恋愛に悩むアラサー女性が主人公の「ハンマー(48億のブルース)」を手掛けた。互いの作品を見た印象は。

清水 どの作品も監督の色が出ているけれど、飯塚組の「ハンマー」が一番好き。ハイテンポな会話の掛け合いは、見る側も追いつくのが大変なほど。せりふで説明し過ぎるドラマや映画が多い中、しゃべり続けているのに説明に陥らない手法はすごい。
飯塚 核心的な言葉ばかりを並べるのは照れる。脚本の何行かが邪魔になっても、生っぽい会話にしたいからそのまま生かす。だから無駄が多い。
清水 その無駄が素晴らしい。「ハンマー」に、主演の尾野真千子さんが下着姿でたばこを吸っている絵があった。漫談のような掛け合いから、ぱっとリアリティーの間に持ち込む。あれはすごいな。
飯塚 清水さんの「少年の詩」はチャレンジの要素が強い。まず俳優として仕上がっていない少年を起用。その上で、曲が作られた当時の懐かしさをしっかり作り込んでいる。

―映画はブルーハーツの曲がテーマになっている。なぜタイトルの曲を選んだのか。

飯塚 小学生の頃からブルーハーツが好き。有名な曲は今もCMで使われているし、イメージが付いた曲はあえて避けた。「ハンマー」のような隠れた名曲を知ってほしいという思いがあった。
清水 「少年の詩」が一番印象強かった。「大人たちにほめられるようなバカにはなりたくない」という歌詞に共感し、今もそう思っている。子どもの目線や当時の風景を描こうとすると、生まれ育った郷里に行き着く。劇中に出てくる竹とんぼや空き缶は私物で、あの時代の空気感を出したかった。

▼古里

 ―「少年の詩」は母校の前橋若宮小で撮影した、清水作品では初めての地元ロケ。飯塚監督の「榎田貿易堂」は渋川市内で撮影した。地元で撮るのは、これまでとは違った感覚なのか。

飯塚 全く違う。生まれ育った場所だから、制作サイドの目で見られない。不思議だし、すごく照れくさい。
清水 恥ずかしいね。
飯塚 撮影中のギャラリーに、自分の子ども時代を知る近所の人がいた。「健ちゃん、立派になって」と声を掛けられたり。ブルーハーツを聞いていた頃は何もない田舎だと思っていた。でも監督としてカメラを向けると、いいロケ地がたくさんあると気付いた。
清水 「少年の詩」の撮影は年末で、エキストラが集まりづらかった。親兄弟親戚に声を掛けたから、ほとんどが知り合い。僕はもともと地元愛がなかったけれど、年を重ねて古里を大切にしたい思いが出てきた。ただ編集は客観的にならないとできないので、個人的な思いとのギャップに戸惑う瞬間もあった。

▼魅力

 ―監督から見た「ロケ地・群馬」の魅力とは。

飯塚 「榎田貿易堂」で伊香保の石段街から山が抜ける絵を撮ったら、合成したようなクリア感が出て驚いた。だてに山に囲まれているわけじゃないなと。
清水 確かに山はいいね。「少年の詩」では団地のベランダから撮影し、後ろに山が抜けるシーンがある。山が絵に描いた張りぼてのように見えた。この絵は東京では撮れない。

 ―「ブルーハーツ―」は制作幹事社が立ちゆかなくなり、一時公開が危ぶまれた。クラウドファンディングで資金を集め、公開にこぎつけた。

清水 やっと地元で上映できる。ブルーハーツファンはもちろん、前橋の人なら親近感を持って楽しめると思う。
飯塚 共演者や監督の熱い思いがこもった作品なので、ぜひ見てほしい。今後は自分のカラーにこだわらず、新しいジャンルに挑戦したい。その一つとして、今秋に靴をテーマにした絵本を出す。
清水 僕も絵本を出したいけれど、なかなか実現しない。映画に関しては、ホラーにこだわらずコメディーやミステリー、ファンタジーも撮りたいな。

【メモ】「ブルーハーツ―」は、ロックバンド「ザ・ブルーハーツ」に影響を受けた映画監督が、自由な解釈で楽曲を映像化した短編6本からなる。原発事故後の日常やSF、ファンタジーなど多彩な物語が、オリジナル音源と共に描かれている。24日から前橋市のユナイテッド・シネマ前橋で公開。同日午後1時の回の上映終了後、清水、飯塚両監督が舞台あいさつする。

(写真・右) しみず・たかし
1972年、前橋市生まれ。ホラー映画「呪怨」シリーズで知られ、同作のリメーク版でハリウッド進出。3Dや4Dの映像作品にも関わる。市内がロケ地となった新作ホラー「こどもつかい」が公開中。

(写真・左) いいづか・けん
1979年、渋川市生まれ。群像劇を得意とし、人気漫画「荒川アンダー ザ ブリッジ」のテレビドラマや劇場版、「大人ドロップ」などを手掛けた。映画やアニメの脚本、小説など多分野で活躍。新作コメディー「笑う招き猫」が公開中。

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