歴史と芸術 発信拠点 結城蔵美館10年 月替わり展や多彩な作家 こだわり企画人気 茨城

茨城新聞
2024年5月20日

茨城県結城市結城の「結城蔵美館」が今年、開館から10周年を迎える。寄贈された古い見世蔵を市が改装し、歴史資料や地元作家の作品を無料で紹介。毎月展示を変え、近隣地域の作家にも枠を広げるなど工夫を凝らしてきた。これまでに登場した作家は100人を超え、歴史や芸術の身近な発信拠点として市民に親しまれている。

▽明治期の風情

結城蔵美館のある同市北部の市街地には、今も見世蔵が多く残っている。正面の大きな扉を開けると、室内は白い壁に囲まれ、吹き抜けの天井には重厚な梁(はり)が見える。風情ある内装は、絵画、陶芸、書など、さまざまな展示物を引き立ててきた。4月にちぎり絵の作品を展示した同市出身の須藤幸子さん(76)は「こんな場所で展示させてもらえてありがたい。やりがいがある」と笑顔を見せた。

館内は本蔵と袖蔵に分かれ、敷地面積は合わせて278平方メートル。袖蔵は1876(明治9)年、本蔵は明治中期ごろに建設され、米蔵として使われていたという。2010年に所有者から市に寄贈された。市は蔵を「結城の過去と未来の結び目」として位置付け、古い見世蔵がある街並みの良さを、さまざまな世代に広める観光拠点とした。翌年から約7000万円をかけて改修を行い、14年5月に開業した。

2014年開館の結城蔵美館

▽楽しめる工夫

袖蔵には、国史跡「結城廃寺跡」の出土品などを展示。同市の歴史に関する資料を初めて常設展示できるようになった。本蔵では、地元作家の作品を紹介する。開館当初、一つの企画展の会期は半年から1年の予定だったが、来館者数が伸びず方針を転換。月替わりで展示を変え、何度来ても楽しめるような施設を目指した。

月替わりとなり、力を入れたのは作家選びだ。過去に展示を行った作家から紹介を受けながら新しい企画を立てた。選考基準は、展覧会などで入賞実績があり創作活動を本業とする結城ゆかりの人。同館の職員、野寺一徳さんは「いい作品を見てもらいたいので、基準は落とさないようにしている」と語る。

来館者数を集計し、人気のあった作家には再登場を依頼している。21年からは筑西、古河市など、近隣地域からも作家を招くようになった。新型コロナウイルスの影響で夏祭りが縮小開催された時は、代わりにみこしを展示したこともある。少しでも祭り気分を味わってもらおうと工夫したという。

▽来館者2倍に

歴史資料の展示では、結城家ゆかりの「御手杵(おてぎね)の槍(やり)」が注目を集めた。名刀を擬人化したキャラクターを育てて戦うゲーム「刀剣乱舞」に登場したことから、全国からファンが訪れるようになった。コロナ禍前の19年には年間2万人を超え、開館当初の約2倍となった。

開館当時から勤務していた伊藤洋美さんは「月替わりの展示を楽しみだと言ってもらえるようになってきた」と実感する。今後について「見た人が感動する展示を目指したい」と語った。