《上州ブランド図鑑》下仁田納豆 経木で炭火発酵 臭い抑えうま味
1963年の創業以来、変わらぬ製法で納豆本来のおいしさを届ける下仁田納豆(下仁田町馬山)。発泡スチロール容器が全盛の時代に、あえて県産アカマツの経木を使ったこだわりの味は、全国の高級スーパーで受け入れられるようになった。近年は体や環境に配慮した商品も提供している。(高瀬直)
下仁田納豆の前身は、南都隆道社長(54)の父、伊藤幸夫さん(故人)が始めた個人事業の納豆店にさかのぼる。
それまでいくつか職を変えていた伊藤さんが、1963(昭和38)年に南都社長が誕生したことを機に落ち着いて仕事に向かおうと納豆店を開いた。伊藤さんの妹が長野県上田市の納豆店に嫁いだことも関係していたようだ。「丸大伊藤納豆店」の屋号で、下仁田町内で納豆を引き売りした。南都社長も子どもの頃は「ナット、ナットー」と売り歩いたという。
大手と差別化
転機が訪れたのは、南都社長が30歳の時だった。実家に帰省した際、「子ども4人を育て上げ、当初の目標は達成できた。廃業する」と父から突然言われたのだ。大手メーカーのエンジニアとして働いていたが、家業を引き継ぐことを決めた。幼い頃から慣れ親しんだ納豆を残したかった。
当時、納豆の大手製造業者ではオートメーション化が進み、発泡スチロール容器を使った大量生産が主流となっていた。「同じ物では太刀打ちできない。活路を見いださなくては」と考え、経木で包装する昔ながらの手作り納豆にこだわることを決めた。
こだわり製法
経木は榛名山麓のアカマツを使う。天然のうま味成分グルタミン酸でおいしさが増し、松やにによる抗菌作用もある。発酵段階で出るアンモニア臭も抑えられ、さらには微生物によって分解される生分解性も高い。大手と違う特色という点からも経木はふさわしかった。
大豆は県産や北海道産を厳選している。蒸煮(じょうしゃ)という工程を経て納豆菌を付け、経木に包んで炭火で発酵させる。発酵は41度の温度で23時間。強制的に空気をかき回すことは厳禁なため、炭火による温度管理が適しているという。
南都社長が事業継承後間もなく出したのが、北海道産大粒大豆の「そでふり」(税別250円)と北海道産小粒大豆の「鈴丸」(同280円)。今でも売れるロングヒット商品だ。上野村の十石みそをたれのベースにした「十石峠」(同150円)や、県産大豆に安中市の老舗しょうゆ醸造、有田屋のしょうゆを使った「妙義山」(同150円)なども人気を集める。
年商30倍に
「手作りで炭火を使うなど非効率な面があり、価格も高い。それでも価値を分かってくれる人はいる」(南都社長)。下仁田納豆の商品は一般的な物と比べて価格が2~3倍ほど高い。価格を決める際は勇気を奮ったというが、商品に対する自信が決断させた。「もうかるためには信者をつくらないといけない。それを増やしていく作業を続けている」。そう言い切る。
こだわりの逸品が受け、今では北は北海道から南は沖縄県まで、品質重視のスーパーなどで扱われるようになった。南都社長によると、経木を使った納豆は全国でも5、6社程度しか手掛けておらず、経木中心にしているのは下仁田納豆ぐらい。「『経木』なら下仁田」と認知も広がっている。事業継承当時は1千万円ほどだった年商は、3億円を超えるまでに成長した。
有機JAS認証
昨年11月、大豆からしょうゆ、からしに至るまで全て有機JAS認証を受けた「いっ歩」(同300円)を発売した。「日本で唯一」という力の入れようで、体や環境を大切にしてほしいという、一つの大きな方向性を示した商品に仕上げた。経木にこだわるのも、山をきちんと管理することで林業体系を維持し、ひいては自然環境を守ることにつなげたいからだ。
お米とみそ汁に納豆―。「朝食をしっかり取り、納豆で食を整えるようになればうれしい。自分自身が整うし、社会も整う」。理想を掲げ、経木の納豆を作り続けていく。
◎県産大豆 普及目指す
今年6月、県産大豆の普及拡大を図ろうと、甘楽富岡地域を中心とした「かぶら大豆生産者協議会」が立ち上がった。下仁田納豆では現在、県産大豆の使用が1割程度のため、農家と連携して5割を目指す計画。各農家の持ち込んだ大豆でそれぞれの納豆を作り、6次産業化の後押しもする考えだ。
無農薬無施肥で大豆を栽培する甘楽町の「菜の花プロジェクトin甘楽」の強矢(すねや)義和さん(62)は下仁田納豆で商品化してもらい、「甘楽納豆」の名称で9月に初めて販売した。「安全安心な材料を使っており、お客さんの感触は良かった」と手応えを感じ、「個々の地域のブランド名でやったら面白いのでは」と今後についても前向きだ。
【データ】南田本店(下仁田町馬山)に併設して工場がある。従業員27人。1993年に下仁田納豆として法人化した。つゆだくで食べる「納豆丼」(税別150円)といった変わり種も商品化している。
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