《北毛発 温泉百景》法師 長寿館が創業140年 足元から自然の恵み
与謝野晶子や川端康成ら文人が愛した法師温泉(みなかみ町)の一軒宿「長寿館」。CMや映画のロケ地にもなった建物は、1875(明治8)年の開業当時の姿を今に伝える。1日夜には創業140周年を記念し、津軽三味線と尺八のミニ演奏会を開催。山あいの秘湯に美しい音色が響き渡った。
弘法大師の発見と伝えられる法師温泉は、古くから湯治場として使われていた。「上越線の父」として知られる政治家の岡村貢が明治初頭に土地を取得。職人と住み込みで3年間かけ、荒れていた道路や川の石垣を整備して長寿館を開いた。
国道17号から脇道に入った終点に、杉皮ぶき屋根の本館が現れる。宿の象徴、法師乃湯は浴槽内に敷き詰めた玉石の間から湯が湧く、全国でも珍しい足元湧出泉だ。本館と法師乃湯は国登録有形文化財になっている。
1981年、上原謙さんと高峰三枝子さんが出演した旧国鉄の「フルムーン」のCMで「あの温泉はどこだ」と話題になり、じわじわと知名度が上がった。
「一時は資金繰りが大変で、地元の人に借金をしていた時期もあった」と6代目の岡村興太郎社長(69)は明かす。演奏会は、苦しい時期を支えてくれた地元住民や従業員らへの感謝の意味もある。
周辺の森にしみ込んだ雨水や雪解け水が半世紀ほど経て、温泉となり湧出する。周囲の環境整備も秘湯を守る秘訣(ひけつ)だ。
長男の建専務(44)は「まず今日来たお客さまに満足していただくことが次の10年、20年につながる」と決意を語った。
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