皇室の美 名品陶磁 茨城・笠間で三の丸尚蔵館展 明治から現代 変遷を一望

皇室に受け継がれてきた美術品などを収蔵し、調査研究や保存管理に取り組む三の丸尚蔵館(東京都千代田区)。茨城県陶芸美術館(笠間市)で開催中の「皇室と近代の陶磁 三の丸尚蔵館名品展」は、天皇家や宮家で大事にされてきた陶磁器を中心に、近現代を彩った名品を集めた。明治期の絢爛(けんらん)豪華な輸出陶磁から、昭和期以降の個人作家による表現の焼き物まで、日本陶磁史の変遷を一望することができる。
三の丸尚蔵館は1993年に開館し、宮中御慶事の際の献上品をはじめ、博覧会、展覧会での買い上げ品など、絵画や書、工芸品9千点余を収蔵する。併せて、調査研究や保存管理を担い、作品を継承していくため、必要な修復事業を行ってきた。これまでに100回以上も企画展を開き、比類ない価値を発信し続けている。

富本憲吉「色絵四弁花角飾箱」(1958年)=三の丸尚蔵館蔵
2020年から新たな施設の建設工事が始まり、11月3日には、拡充された新施設が開館。全体の工事は26年に終了を予定し、期間中は収蔵品の展示ができないため、地方の博物館などに積極的に貸し出されている。県陶芸美術館ではこの流れに沿い、皇室の名品を広く伝えるため企画に至った。
本展は、「明治陶磁と帝室技芸員」「大正・昭和初期の陶芸」「個人作家の登場」「笠間・益子の陶芸」の章立て構成。三の丸尚蔵館を主体に、県陶芸美術館の所蔵品などを加えた115点を展示する。
「明治陶磁と帝室技芸員」では、明治陶磁の多彩な広がりに主眼を置き、輸出の花形となった薩摩(さつま)様式と呼ばれる作品群を並べた。このうち六代錦光山宗兵衛「金鶏鴛鴦図(きんけいおしどりず)花瓶」は、胴部に金鶏や牡(ぼ)丹(たん)、菊、桜が対になるように配され、要所に用いられた金彩が絢爛豪華な輝きを放つ。
ほかに、明治宮殿を彩った精磁会社の花瓶や、京都の陶工・幹山伝七(かんざんでんしち)の華やかな絵付けの和食器などを紹介。戦前の優れた美術家に与えられた栄誉職の帝室技芸員のうち、陶磁器分野の5人の中から、初代宮川香山(みやがわこうざん)、板谷波山(現筑西市出身)らの作品も展示する。

沼田一雅「陶彫唐獅子」(1928年)=三の丸尚蔵館蔵
「大正・昭和初期の陶芸」では、新設された各種工芸学校や研究組織を拠点とする新機軸に光を当てた。
沼田一雅(ぬまたいちが)は、フランス留学を経て陶彫の研究を進め、京都市陶磁器試験場で活躍した。本展出品の「陶彫唐獅子(とうちょうからじし)」は、試験場の彫刻部嘱託となる前、秩父宮家から依頼を受けて制作。狛(こま)犬(いぬ)の伝統スタイルを踏襲しながらも、モデルとしてライオンを観察したことにより、獅子の肉感が見事に表現されている。
「個人作家の登場」では、昭和前期に中国陶磁や民芸運動をよりどころに台頭した個人作家に着目。富本憲吉(とみもとけんきち)や楠部彌弌(くすべやいち)ら戦後の重要無形文化財保持者や文化勲章受章作家を中心に、昭和から平成にかけての日本陶芸の流れをたどった。富本の「色絵四弁花角飾箱(いろえしべんかかくかざりばこ)」の四弁花模様は、自宅に植えられた定家葛(かずら)の五弁の花がモチーフ。四弁花模様にしているのは連続模様として用いやすいためで、色絵作品の完成形の一つとされている。
担当の飯田将吾主任学芸員は「皇室で大事にされてきた近現代の陶磁器を集めた貴重な展覧会。価値をかみしめながら、時代を彩った名品の変遷を楽しんでいただければ」と話している。
12月10日まで。月曜休館。同館(電)0296(70)0011。