絵本めくるような楽しさ 「猪熊弦一郎展」 茨城県近代美術館 6月25日まで

茨城新聞
2023年5月21日

優れた芸術作品の楽しみ方、感じ方は自由であっていい。それを体現した画家が猪熊弦一郎(1902~93年)だ。茨城県近代美術館(水戸市千波町)で開催中の企画展「猪熊弦一郎展『いのくまさん』」は詩人、谷川俊太郎の絵本「いのくまさん」の軽妙な文章とともに、絵本のページをめくっていくような楽しさにあふれている。

猪熊は香川県生まれ。東京美術学校(現・東京芸術大)で藤島武二から油彩画を学び、36年、小磯良平らと新制作派協会(現・新制作協会)を結成した。

その後、東京、パリ、ニューヨーク、ハワイと拠点を移し、マティス、ピカソ、藤田嗣治、イサム・ノグチら多くの芸術家と交友。独自の画風を追究していった。

同展は、猪熊作品を子どもにも分かりやすく紹介しようと、没後に発刊した絵本「いのくまさん」(小学館)を基に構成している。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県)所蔵の127点を、こどものころ/じぶんのかお/とりもすき/ねこがすき…などのタイトルに沿って展示した。

猪熊弦一郎「飛ぶ日のよろこび」(1993年、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館蔵)©公益財団法人ミモカ美術振興財団

谷川の言葉のリズムに合わせ、会場にはカラフルで生命力に満ちた世界が広がる。「猫によせる歌」などネコに対する愛情たっぷりの32点、人の顔がぎっしり並んだ「顔80」、カラフルなトリと人面を描いた「飛ぶ日のよろこび」など。作品に顔を寄せ表情や動きを目で追ったり、年代ごとの作風を比べてみたり、見方はさまざまだ。

ほかに、40年に及んだ「小説新潮」の表紙、百貨店三越の包装紙デザイン「華ひらく」、JR上野駅中央改札壁画「自由」のパネル、「対話彫刻」と名付けたおもちゃなどを展示。描くことにとどまらない猪熊の多彩ぶりを紹介する。

「何を描いているのか分からなくても、美しいというのが分かれば、それがいちばんいい絵の見方です」。猪熊の言葉通り、子どもから大人まで、美術作品を「鑑賞する」という意識を捨て、素直に楽しみたい企画展だ。

会期は6月25日まで。午前9時半から午後5時まで。月曜休館。

28日午後2時から、同館地階講堂で担当学芸員による鑑賞講座「猪熊弦一郎と彼をめぐる人たち」が開かれる。定員250人(申し込み不要)、無料。