伊藤幾久造の絵画、寄贈相次ぎ特別展 茨城・かすみがうら市歴史博物館

茨城新聞
2022年6月21日

茨城県かすみがうら市にゆかりがあり大正から昭和期に活躍した挿絵画家、伊藤幾久造(きくぞう)(1901~85年)の日本画作品が、遺族らから同市歴史博物館に相次いで寄贈され、コレクションを充実させた。戦中に同市に疎開後、6年間にわたり住民たちと親交を深め、多くの作品を地域に残した。寄贈品は手紙類を含めると約100点に及ぶ。同館は「まとまったコレクションは全国でもなく、調査研究に生かしたい」と説明している。

伊藤幾久造は東京生まれ。若くして絵画を始め、16歳で日本画家の伊東深水の画塾に入った。雑誌の挿絵を多く手がけていたが、戦中の1943年に下大津村(現かすみがうら市)戸崎の松学寺に疎開。戦後も家を構え、49年に東京に戻るまでとどまった。地域の有力者で絵の購入者となる袖山幸太郎氏に出会い、日本画を多く描いた。袖山氏を通じて周辺の住民からも絵の依頼を受けたり、世話になったお礼に贈ったりして、掛け軸からふすま絵、色紙まで提供した。

同館の千葉隆司館長は「美人画や歴史画、風景画をはじめあらゆる題材を精緻に完成させる技術があった。幾久造の人柄に引かれた住民らと交流が深まり、市内だけでも500点以上の作品が各家に残されている」と説明する。

寄贈は、袖山家から昨年5月、掛け軸とびょうぶ絵22点、手紙・色紙など59点。幾久造の子孫からも同12月、掛け軸など6点、画集7冊を一括で受けた。目録作成を経て公開できる準備が整い、今月上旬から同館で展示している。

主な作品では、湯上がり姿や四季の風景を背景にした女性を描いた美人画、関ケ原に臨む徳川家康、牛若丸と弁慶といった歴史画など。いずれも色彩豊かで細かい作風が特徴だ。

作画に当たる伊藤幾久造(弥生美術館提供)

 

千葉館長は「歴史画は時代考証をし、仕事は早かった。手紙は、誰にいつどんな作品を提供したか書かれた物もあり貴重。作品が散逸せず寄贈されたのはありがたい。幾久造の人間性を研究したい」と見据えた。

同館は10月10日まで、幾久造を紹介する特別展を開催。寄贈品のほか市内の個人蔵を含む約200点が並ぶ。