生活に根差す「異界」知ろう 県立博物館 来月15日まで、企画展 わら人形、地獄絵図… 行事、儀礼からひもとく

下野新聞
2022年5月22日

日々の暮らしの中で、栃木の人たちは「日常とは違う世界」をどう認識し、関わってきたのか-。県立博物館で開催中の企画展「異界~あなたとふいにつながるせかい」は、江戸時代から現代まで、約300点の資料を提示し民俗的に考察している。「虫送りの藁(わら)人形」(日光)「疫病神の詫(わ)び証文」(鹿沼)など、展示品からは「別世界」が実は生活に根差した身近な存在であることが伝わってくる。

「『異界』の定義は難しいが、ここでは『日常世界とは異なる世界』と捉え、それはどこにあり、何があると考えられてきたのかなどを行事や儀礼などを通してひもといた」と宮田妙子(みやたたえこ)主任研究員。

第1章「どこに」では、災害や疫病を防ぐために集落の辻(つじ)に置かれたわら人形、家の入り口にまつられた「百万遍の数珠」(那須)、背にお守りを縫い付けた子供用の着物(那須塩原)などを展示。いずれも異界は自分たちの外側にある世界として、その「境」を重視した風習だという。

「境」で区切られているはずの異界が、ふいに表れる時を「人生の節目」とする第2章「いつ」は、子宝・安産祈願の札や婚姻に関する儀式、死にまつわる禁忌などが紹介される。季節や一年の変わり目にも同様に異界は意識され、その力をよけたり、もらったりするための正月や盆の行事が例示されている。

特別な力がある異界に潜むのは得体(えたい)の知れない者。神仏、死者、妖怪が登場する第3章の「存在するもの」は百鬼夜行の世界で、宇都宮に伝わる百目鬼(どうめき)伝説の「百目鬼之姿絵」(1325年)、那須町の殺生石にちなむ「玉藻前草紙絵巻貼合屏風(びょうぶ)(部分)」(江戸時代)などが並ぶ。神仏に頼る切実な願い、当時の世相などをうかがい知ることができる。

最終章「なぜ」は、宇都宮市の光琳(こうりん)寺に伝わる「六道地獄絵図」に象徴されるように、異界の存在を意識することは、普段の暮らしや行動を見つめ直すことにつながっていると結ぶ。異界の力に備えようという「疫病神の詫び証文」(江戸時代)、異界を想像して楽しむおとぎ話など、畏怖だけではない側面も面白い。

「特別な世界である異界が、福や魔の象徴として、日常生活に深く関わってきたことを楽しみながら感じてほしい」と宮田さんは来場を呼びかける。

6月15日まで。観覧料一般260円、高校生・大学生120円、中学生以下無料。(問)同館028・634・1311。