舞台は栃木市 芥川賞候補に 乗代雄介さん「皆のあらばしり」 皆川の歴史 学悠館高研究がヒント

下野新聞
2022年1月3日

 新進気鋭の三島賞作家乗代雄介(のりしろゆうすけ)さん(35)が、栃木市皆川地区を舞台として描いた最新小説「皆(みな)のあらばしり」(新潮社刊)が第166回芥川賞(日本文学振興会主催)の候補となった。歴史的書物を巡る男子高校生と謎の男とのやりとりを、テンポ良くミステリーの要素も盛り込み描いた話題作。同市内の高校生らによる実際の歴史研究がベースとなっており、地元を中心に「地域の活性化につながる」として注目度が高まっている。

 北海道出身の乗代さんは「十七八より」で2015年に群像新人文学賞、「旅する練習」で21年に三島由紀夫賞を受賞した。芥川賞候補に選ばれたのは3作目。

 皆のあらばしりは、皆川城址(じょうし)で歴史研究部の男子高校生と大阪弁で話す謎の男が出会うシーンから始まる。地元の名士が蔵書目録に残した「謎の本」について2人が調査する中で、皆川地区の自然風景や町並み、旧跡などが詳細に描かれている。

 乗代さんはさまざまな土地へ出掛けて風景描写したメモを小説に生かしており、巴波(うずま)川や渡良瀬川沿いも歩いている。20年秋に皆川城址を訪ね、作品にも登場する西の丸で風景描写した際、「街が見渡せて人々の暮らしがにじみ出ている」と気に入ったという。その後も、季節や時間を変えて足しげく通った。

 皆川地区について調べ始めたところ、学悠館高歴史研究部が地域研究をまとめた書籍と巡り合った。明治期の地誌の下書きが残っているのは、市内では皆川地区のみ。地誌の内容をそのまま活字化して刊行する「翻刻」を地元高校生が行っていると知り、「数世代にわたって研究に取り組んでいることにロマンを感じ、地誌を読み解く過程に興味を持った」と高校生を主人公にした。

 同校で歴史研究部の指導に当たった斎藤弘(さいとうひろし)さん(62)=足利市福居町=は「生徒それぞれの個性が出た文章で活動が思い出された。地域から現代社会を見ることは大切なので、たくさんの人に注目してもらいたい」と期待を寄せる。

 皆川地区街づくり協議会歴史文化部会長の麦倉信二(むぎくらしんじ)さん(76)も「公園整備などの活動にも一層力が入る。本をきっかけに地域を盛り上げたい」と話した。

 芥川賞の選考会は19日、都内で開かれる。乗代さんは「小説を通じて地元の歴史や人々の営みが続いていることに興味を持ってほしい」と話した。

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