実写、アニメの交錯世界 水戸で佐藤雅晴さん個展 22年1月30日まで

茨城新聞
2021年12月24日

茨城県取手市で暮らし、2019年3月に45歳で亡くなった現代美術作家、佐藤雅晴さんの個展「尾行-存在の不在/不在の存在」が、水戸市五軒町の水戸芸術館現代美術ギャラリーで開かれている。現実(=実写)と非現実(=アニメ)が交わる作品など64点が展示され、佐藤さんの創作活動を振り返ることができる。22年1月30日まで。

■過去最大規模
佐藤さんは「ロトスコープ」という技術を使った作品で、国内外で高い評価を得ている。「ロトスコープ」とは、ビデオやスチールカメラで撮影した日常風景をパソコン上でトレース(=写し取る)してアニメーション化したもの。実写とアニメが混ざっているような画像が、鑑賞者に現実との違いを感じさせる。

今展では、1999年にドイツに渡り初めて作った映像作品から亡くなる直前まで描き続けたアクリル画「死神先生」シリーズ(2018年)までを紹介している。展示作品の内訳は映像作品26点、平面作品38点。現存する佐藤さんの全映像作品を一堂に集め、未発表作も初公開されている。同館によると、映像作品は60以上のスクリーンとモニターで展示され、過去最大規模という。

■取手市の情景
佐藤さんは1973年、大分県生まれ。東京芸術大で絵画を専攻。2000年にドイツに渡って活動し、10年に帰国し、亡くなるまで取手市で暮らした。そのためか、映像作品には取手市の情景を描いたものが多く見られる。

天使と悪魔の姿をした男女によるドラマ仕立ての「バインド・ドライブ」(10~11年)は、自身が暮らした取手市を舞台に、雨の降る街並みなどを描いた作品で、田んぼのあぜ道や家並みの描写が印象的だ。

2体の愛らしいぬいぐるみが、お別れと手招きをしている「バイバイカモン」(10年)は、縫いぐるみと地面の芝が取手市で撮影され、背景写真がドイツという合成作品で、ドイツから帰国し、取手市に居を構えた分岐点にあたる時期に作られた。

佐藤雅晴さんがドイツから帰国し、取手市に居を構えた時期に作られた作品「バイバイカモン」=水戸市五軒町

 

■初公開作も
映像作品では、未発表だった「SM」(15年)が初公開。代表作で出世作の「東京尾行」(15~16年)では、東京五輪開催で大きく変化していく東京を描いた。闘病生活を続けながら制作した未完の「福島尾行」(18年)では、東日本大震災後、復興が進まない福島の様子を表現した。

佐藤さんは日本帰国後に上顎(じょうがく)がんが判明。手術したが15年に再発し、19年3月9日に亡くなった。病気の進行で映像作品の制作が困難になる中で作った「死神先生」シリーズは、死と向かい合う中で制作を続けた佐藤さんの生活などをうかがうことができる。

同館主任学芸員の井関悠さんは「これからの未来を考えるきっかけにしてもらえたら」と話す。

午前10時~午後6時。月曜日と12月27~1月3、11日は休館。入場料一般900円、高校生以下、70歳以上など無料。

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