通も初心者も飲みやすく murmur(日光)

下野新聞
2021年9月16日

 カウンター脇の壁に貼られた、たくさんのインスタント写真。ビールを手にした笑顔がずらりと並ぶ。見ているだけで幸せな気分にさせてくれる。

 世界遺産「日光の社寺」門前町にある「murmur“biiru”stand」(マァマー・ビールスタンド)。建物の奥に醸造所を備えた立ち飲みスタイルの店で、2018年6月にオープンした。

 場所柄、駅から社寺へ歩いて向かう外国人観光客らをターゲットとしており、インスタント写真の顔も外国人が多い。インバウンド(訪日外国人客)が盛り上がりを見せ、門前町の歩道整備によって日本人でも歩く人が増加。軌道に乗ってきたところ、コロナ禍に見舞われた。

 緊急事態宣言に伴い、今も休業を強いられている。「にぎやかなときに比べて少し寂しいですね」と、社長として店も一人で切り盛りする須藤克支(すとうかつし)さん(49)。

 実は「ビールが好きじゃなかった」という。クラフトビールとの出合いは20年近く前、都内で会社員をしていたころだった。下北沢のハンバーガーショップでベルギービールの「ヒューガルデン」を飲んだ。「なんじゃこりゃ」。あおるように飲むのとは違って、味わう一杯に衝撃を受けた。

 ベルギービールや国産クラフトビールを出すビアバーに「入り浸り」(須藤さん)となり、「ビールって面白い。ビール造りに携わりたい」と思うようになった。折しもリーマン・ショックで転職を余儀なくされたのを機に、この世界へ飛び込んだ。

 求人が出ていたサッポロビール那須工場(那須町)に勤めた後、会社を替え、日光市や上三川町でビール造りを学んだ。宇都宮市の「BLUE MAGIC」では接客を経験。このとき、常連客から今の物件を紹介された。

 提供するビールは「通な外国人も、クラフトビールを知らない初心者も楽しめる、みんなが飲みやすいものを心掛けている」。店名の「murmur」は英語で「ささやき」などを意味するが、込めた思いは日本語の「まぁまぁ」から。「怒っている人をなだめたり、落ち込んでいる人を励ましたりできる魔法のような言葉」と須藤さん。そんな“魔法が掛かった”ビールで「『仲良くしようよ』『元気出そうよ』と」。

 飲みやすいペールエールのほか、外国人が好むという「黒いビール」。香味の強いスタウトに、深いりのコーヒー豆を漬け込んでいる。メニューでは「もの凄(すご)く酔っぱらうアイスコーヒー!?」と紹介する。

 また「これに似たビールはあまりないと思う」という「マチルダさん」。ワインに香辛料のシナモンなどを加えて作るホットワインのレシピを参考にしており、温めても楽しめる。

 この秋、瓶入りを作って日光市内に卸すことを考えている。買える場所、飲める場所を限ることで「日光へ来てもらう理由になれば」と話す。「日光のmurmur」の浸透にまた一歩、歩みを進める。

 ■メモ 日光市上鉢石町1013。新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言を受け休業中。通常の営業時間は正午~午後10時(火曜は午前10~午後3時)。水、木曜定休。ビールは全種類、スモール(250ミリリットル)が500円、ビッグ(500ミリリットル)が千円。ペットボトルの持ち帰り(500ミリリットル)が千円。再開についてはフェイスブックページで確認を。

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