高い写実性 鎌倉時代慶派制作 文化財、国指定に期待 桜川・雨引観音の金剛力士像

茨城新聞
2021年1月22日

東京芸大で修復作業が進められてきた金剛力士立像「阿形(あぎょう)」「吽形(うんぎょう)」の2体が昨年12月24日、桜川市本木の雨引山楽法寺(雨引観音)に3年ぶりに帰還した。運慶や快慶で知られる慶派の仏師が鎌倉時代に制作した像と考えられ、高い写実性が特長となっている。今後、文化財として県指定に向けた作業が進められるが、国指定にも大きな期待がかかる。将来の地域振興にも大きく寄与しそうだ。

▽木1本から2体
高さ約2.5メートルの金剛力士立像2体はもともと、同寺の仁王門に配置され、風雨にさらされる環境にあった。少なくとも室町時代と江戸時代の2回、大規模な修理が行われたことが明らかになっている。

過去の修理では像の表面に紙が貼られ、その上から赤い塗料が塗られていた。2体は1998年に旧大和村(桜川市)文化財に指定されたものの、大きな注目を浴びることはなかった。

同寺は今回、修復費用約3千万円を負担。吽形は2018年11月に、阿形は19年11月に、それぞれ同大に搬送された。

立像は太さ約2メートルのヒノキから、腕を除いた体の部分が彫り出されていた。修復作業を担当した、東京芸大大学院の籔内佐斗司教授(67)は「われわれは2体が1本の木から作られたと想像している。これだけ大きな1本の木というのは、この近くに植えられていたご神木だと思う」とした上で、「ただし、これを彫ったのは関西から来た人たちかもしれない」と説明する。

▽解剖学的正しさ
像の最大の特長は、造形のリアリズムだ。籔内教授は「鎌倉時代は写実的といわれるが、この筋肉などはまさに解剖学的にも説明ができる素晴らしい像。医者が見てもびっくりすると思う」と絶賛した。制作の背景として「中国の宋の時代の科学的なものの考え方が、日本に大きな影響を与えていたことの証拠でもある」と解説した。

同寺寺務長の宇留野聖澄さん(72)は「立像が帰還した時、その大きさにあらためて驚かされた。歴史的経緯を知り、大切にしなければいけないと痛感している」と思いを込めた。

▽コロナ収束待つ
同寺に帰還した2体は、過去の修理で塗られた塗料などをきれいに落とし、欠損部分を補った状態。像の内部にあった修理銘札、巡礼札、文書類などは、像から取り出された状態で保管される予定だ。

同寺は新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、2体とも当面未公開とする。感染症の収束を待って一般公開する方針だ。展示の展望について、同寺は「既存の収蔵庫が古くなってきている。将来的に展示公開できる機能を備えた収蔵庫を造りたい。高齢者が鑑賞しやすいよう、バリアフリーの機能を備えたものにできれば」と説明した。

県内最古級の金剛力士立像でもあり、文化財としての今後の評価に、関係者の注目も集まる。一連の作業を見守ってきた、茨城大五浦美術文化研究所客員所員の後藤道雄さん(87)は「国指定へ期待は高い」。籔内教授も「遅かれ早かれ国指定になるだろう」とつぶやいた。桜川市生涯学習課職員の寺崎大貴さん(49)は「まず、県指定に向けて作業を進める」と強調した。

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