《食いこ》麦家(那珂市) 庭を眺め味わう十割そば 石臼でひき、手打ち

茨城新聞
2020年11月30日

11月半ば、木々が赤や黄に色づいた庭の先に古民家が姿を現す。隠れ家のような場所にある那珂市のそば店「麦家」。店主の鈴木照男さん(78)が手打ちした十割そばを座敷で味わいながら、四季折々に表情を変える庭を眺める。庭の雰囲気もごちそうの一部。心地よい、ゆっくりした時間を過ごせる。

そば打ちが趣味だった鈴木さんは、水戸市で美容関係の会社を営んでいたが、60歳で引退。「自然が好きで、年を取ったら田舎暮らしをしたい」という夢をかなえるため、2005年にそば店を開いた。店舗は築140年の古民家をひたちなか市から移築した。庭は3年かけて設計から植栽まで鈴木さん一人で造り上げた。北海道から屋久島までのさまざまな樹木や山野草を植え、「五感をくすぐる雑木の庭を造った」と話す。

暮れゆく秋、自然の営みが息づく庭では、ヤマコウバシやカエデ、モミジ、ゴヨウツツジなどの紅葉が終わると、山野草が色づくという。「落ち葉を踏みしめた足の感触を楽しみ、落ち葉の匂いを感じてほしい」。庭に遊びに来るシジュウカラやヤマガラなどの野鳥がこずえでさえずり、小さな池で水浴びをする姿も見られる。6月には光を放つホタルが庭を飛び交う。

そば打ちは独学。十割そばのおいしさにこだわった。ほのかな緑色の端正な十割そばは、玄そばをその日の分だけ石臼でひき、手打ちする。香りや色、味が楽しめる収穫時期の早い玄そばを仕入れ、新鮮さを保つために真空パックにして冷蔵庫で保存する。小美玉市産の常陸秋そばで、5日からは秋の新そばが始まった。感染症拡大防止対策をしての営業。

ほのかに緑色の十割そば

そばつゆのだしは鹿児島県産カツオ節で取る。「血合いを抜いた雑味のない厚削り」を使っている。畑ではネギや大根、天ぷら用の野菜を無農薬で栽培。庭では養蜂も行う。天ぷらを揚げるのは妻の節子さん(72)の担当だ。

「そば打ちだけでなく、四季の移り変わりに追い掛けられながら楽しく庭仕事をしている」と鈴木さん。節子さんは「毎年同じように庭の景色が変わるのにいつも感動する」。夫妻は穏やかな笑顔を見せた。

■お出かけ情報
麦家
▼住所は那珂市後台1229
▼営業は午前11時半~午後2時(売り切れ次第終了)
▼定休は月曜・火曜、来年1月からは月-水曜
▼(電)029(353)0505

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