自己の運命を予言? ワーゲン車切断「僕の世紀末」や唇グロテスク「UNTITLED」 里中英人展 笠間・茨城県陶芸美術館

茨城新聞
2020年9月25日

1970~80年代に活躍した陶造形作家で笠間に住んでいたこともある里中英人(32~89年)の軌跡を15点の作品でたどる「里中英人展」が、笠間市の県陶芸美術館で開かれている。遺族から寄贈を受けた作品の修復・クリーニングの完了を機に企画された。土の焼成プロセスを表現に取り込み、社会風刺も込めた作品を、きれいになった状態で鑑賞することができる。

里中は名古屋市出身で、東京教育大(現筑波大)で建築・工芸を専攻した。70年に八木一夫に師事し、走泥社(そうでいしゃ)に参加。71年の第1回日本陶芸展では出品作の「シリーズ:公害アレルギー」が優秀作品賞を受賞。国際陶芸展でも活躍した。

東京や埼玉を拠点にしていた里中は、81年に笠間市に移住。その際、建てた住宅は建築家の伊東豊雄氏が設計した。伊東作品の「笠間の家」は現在、市が所有する公共施設になっている。

展示作品は、1点を除き同館の所蔵品で、笠間の住宅に残されていた遺品。制作年代は68年ごろから89年にわたり、平面と立体、他に鏡やガラスなどの素材と組み合わせた作品もある。

「UNTITLED」(85年)は約30センチ四方の陶板が17個、横一列に並ぶ。一つ一つに付けられた「唇」。その色は徐々に濃くなり、やがて形が崩れだし、最後は溶けた状態になってしまう。「欲望を甘受する唇」がグロテスクに壊れていくさまは、作者の時代へのまなざしを感じさせる。

唇の形が徐々に崩壊していくような造形の「UNTITLED」=笠間市笠間

白いフォルクスワーゲン車が、切断され、ミラーの上に置かれている「僕の世紀末」(89年)は、陶以外の素材と組み合わせた作品例の一つ。里中は同年、自動車運転中の衝突事故で、劇的にこの世を去った。それを考えると、まるで自己の運命を予言していたようにも見えてしまう。ワーゲン車は、里中の愛車だった。

同館の飯田将吾・副主任学芸員は、里中の仕事の特徴を「陶芸の可能性を、焼成のプロセスを見詰めることで追求した」と解説する。笠間で彼の遺業を紹介する意義について、「笠間を、現代陶芸の作家を生み出す産地という方向で考えるとき、その先駆者として里中が浮かび上がってくるのではないか」と指摘する。

会期は10月11日まで。休館日は月曜日。問い合わせは同館(電)0296(70)0011

地図を開く 近くのニュース