《ニュース最前線 24》売り出せ群馬のロケ地、ファン集う聖地に 地域ぐるみでアピール ブースやマップ、誘客へFC本腰

上毛新聞
2017年10月13日

◎撮影後も活用
「ガッキーが高崎で撮影したなんてすごい」。9月下旬、高崎市の高崎アリーナにお目見えした映画「ミックス。」のPRブースで、通り掛かった利用者が驚きの声を上げた。「ミックス。」は卓球がテーマのコメディーで、主演はガッキーこと新垣結衣さんと瑛太さん。クライマックスとなる全日本卓球選手権のシーンの撮影が3月、アリーナで市民らエキストラ延べ2千人を集めて行われた。
撮影を支援したのは高崎フィルム・コミッション(FC)。県内有数の支援実績を誇る老舗FCだが、ロケ地にPRブースを設置したのは初めてだ。担当の山藤堅志さん(53)は「これまでのFCはロケにいらっしゃい、終わったらさようなら。ロケツーリズムの盛り上がりで、撮影後も観光資源として生かそうと意識が変わってきた」と説明する。

◎受け入れ態勢
高崎FCがロケツーリズムに着目したきっかけが、若者たちの抗争を描いた「HiGH&LOW(ハイアンドロー)」シリーズだ。人気グループ「EXILE」メンバーが出演し、熱烈なファンも多い。
高崎中央銀座商店街は映画の最新作にも登場し、ファンが巡礼に訪れる「聖地」の一つ。ロケ地巡りの拠点となる高崎電気館(同市柳川町)は、全国から延べ約700人が訪問した。この勢いを周遊観光や地元消費につなげようと、高崎FCはグルメマップや記念カードの配布、希望者には周辺のロケ地を案内するなど、観光客の受け入れ態勢を整え始めた。
実績のあるロケ地でも、地元の受け入れ態勢がなければ観光地化できない。県内最多の撮影実績を誇る同市吉井町の廃工場は、私有地のため立ち入りは禁止されている。特撮の名所で有名だが、観光客を呼び込むのは難しい。
桐生・みどり地域で活動するわたらせFCも同じ悩みを抱える。昨年度は52件の撮影を支援したが、一場面のみの撮影も多く、聖地と銘打ってアピールできる作品はなかった。古い建物や街並みなど人気のロケ地は私有地であることが多く、人が集まるような宣伝はできない。同FC代表の周藤史朗さん(44)は「ランドマーク的な建物がうまくロケ地になればいいが、こればかりは作り手次第」と歯がゆさをにじませる。

◎廃校でライブ
巡礼に適したロケ地が限られる中、11月公開の映画「氷菓」が撮影された廃校、旧安中高(安中市安中)が注目を集めている。「氷菓」は累計230万部を超える学園ミステリーが原作。山崎賢人さんと広瀬アリスさんが主演し、旧安中高が「岐阜県立神山高校」として登場する。
9月23日には主題歌を手掛ける音楽ユニット「イトヲカシ」が、旧安中高校庭でライブを開き、全国から集まったファン300人に映画の「聖地」を印象づけた。撮影を支援した群馬あんなかロケーションサービスも会場で観光パンフレットを配り、公開後のファンの巡礼に期待を寄せる。
「氷菓」は2012年のアニメ版も大ヒットし、舞台となった岐阜・高山市は観光客増や土産販売などで21億円の経済効果があった(十六銀行経営相談室試算)。ライブ当日、応援に駆けつけた高山「氷菓」応援委員会の中田智昭さん(49)は「地元を挙げて作品を応援すれば、若者も興味を持ってくれる。氷菓ファンは熱心だから、必ず旧安中高も巡礼に来てくれるはず」とエールを送った。
すでに他県ではロケ地巡りのツアーやファンの交流拠点づくり、ご当地限定のグッズ開発などで先行している。群馬のロケツーリズムは始まったばかり。地域ぐるみの観光PRが、ビジネスチャンスの鍵を握る。

【観光地化】経済効果に期待
ロケツーリズムは古くて新しい観光手法だ。映画「ローマの休日」や韓国ドラマ「冬のソナタ」、北海道・富良野が舞台の「北の国から」など、ロケ地が観光名所となった例は過去にも多い。最近では劇場版アニメ「君の名は。」の大ヒットで作品の舞台を巡る「聖地巡礼」が話題となり、ロケ地マップなどの情報公開が盛んになってきた。
これまでロケ誘致に主眼を置いてきた自治体やフィルムコミッション(FC)も、その経済効果に着目し始めた。ロケ地の観光地化に成功すれば、ロケ隊の飲食や宿泊、セット設営などの直接的な経済効果に加え、観光客増など間接的な効果も加わる。高崎FCによると、ロケ隊の経済効果は規模によって百万~2千万円程度。担当者は「観光PRなど広告換算効果も含めれば億単位になるのではないか」と試算する。
ロケ地マップを作る県内のFCが増えてきた。前橋FCは福山雅治さん主演の「そして父になる」(2013年公開)を皮切りに、4月公開の映画「ブルーハーツが聴こえる/少年の詩」や「耳かきランデブー」などのロケ地マップを公開した。ただ、劇中写真を使う場合は著作権の問題が絡むため、あるFC担当者は「ロケ対応で忙しくPRまで手が回らない。ノウハウの構築もこれから」と明かす。
今後は、ロケ地情報の一本化も課題だ。県内には地域ごとに九つの撮影支援団体があり、不在地域は県設置のぐんまFCが担当している。全域のロケ地情報をまとめたホームページはこれまでになく、県が制作を検討している。

【記者の視点】地方からヒット作 和田早紀
高崎電気館の屋上から映画「ハイアンドロー」の最新作が撮影されたアーケード上の骨組みを見渡せる。むき出しの鉄骨が続くだけの風景だが「あこがれの俳優が立った場所を見られてうれしい」と感動して涙を流すファンもいる。
映画やドラマの力は大きい。名場面を追体験しようと、国内外のファンがロケ地に集う。記者も「そして父になる」を見て、前橋市内のロケ地を巡った。クライマックスを思い出しながら利根川自転車道を歩いた時の感動を忘れられない。
県内は高崎、中之条、桐生などで映画祭が開かれ、ロケから上映までこなせる態勢が整う。映画文化を支援しようという意識が強い土地柄だけに、若手監督を招いて地元を撮影してもらうなどの育成事業にも適している。大作とタイアップした観光戦略と並行して、地方からヒットを生む仕組みづくりにも期待したい。