《挑戦の100回・水戸室内管弦楽団》(下) 「世紀の協演」伝説に

茨城新聞
2017年10月9日

5月13日、水戸芸術館で開かれた本年度事業の記者説明会。同館専属楽団、水戸室内管弦楽団(MCO)を率いる世界的指揮者の小澤征爾(82)は、自らの音楽人生とMCOとの関わりについて言葉を紡いだ。

「水戸のオケには、初代館長の吉田秀和先生と、(館の創設を発案した)元市長の佐川一信さんの意気込みが息づいている。吉田先生から楽団員の選定を頼まれた時に、『水戸という小さな街の専属楽団になる』と覚悟を決めたことが、ここでの出発点となった」

さらに力を込めた。「水戸の仲間と演奏を繰り広げる中で、その意気込みが消えていないことを実感し、意気込みに賛同する若い人たちもどんどん入ってくれている。僕のような指揮者からすれば、ここは最高の場所。誇りに思う」

地元の音楽ファンは、名演を気軽に楽しめることにMCOの存在意義を感じている。同市の元自営業、三浦昭一(82)は、第1回定演から欠かさず同館に足を運ぶ。「優れた音楽を身近に聴けるのは、吉田秀和先生が楽団をつくってくれたから。感謝している」としみじみ語る。

小澤が病気療養から復活した2014年1月以降、MCOはベートーベン交響曲に挑戦。これまでに「第4番」「第7番」「第8番」「第2番」「第5番」「第1番」(演奏日順)を取り上げている。

このうち「運命」と呼ばれる「5番」は16年3月、同館のほか、東京のサントリーホールで天皇、皇后両陛下を迎えて演奏した。

終了後、両陛下は誰よりも先に立ち上がって拍手を送り、広い会場は約15分にわたり総立ちとなった。

小澤は5月、現代最高のピアニストの一人、アルゼンチン出身のマルタ・アルゲリッチ(当時75歳)と世紀の協演を果たす。曲は、ベートーベンの「ピアノ協奏曲第1番」。力みなぎる名曲を、アルゲリッチは華麗なテクニックで演奏。小澤とMCOは注意深く聴き、端正で洒脱(しゃだつ)な音色に仕上げていった。

「マルタは技術的に最高のことやっているピアニスト。僕の指揮があってもなくても、マルタとオケは互いを聴いて合わせていた。これが室内楽の良さ」。小澤は定演翌日、「鍵盤の女王」と心を通わせた時間を満足げに振り返った。

この後、MCOはアルゲリッチが総監督を務める「別府アルゲリッチ音楽祭」(大分県)にも参加。昨秋、外国人叙勲で旭日中綬章を受章したアルゲリッチに対し、小澤とMCOはサプライズで、モーツァルトの「ディヴェルティメント」の演奏を贈った。円熟を極める2人の交歓は、新たな伝説となった。

結成から27年を経て、新たな高みを目指すMCO。第100回定演でベートーベンの「交響曲第9番」に挑む。人類愛をテーマにした大作を、平和と友好のメッセージとして水戸から世界に発信する。 (敬称略)
【写真】第99回定演でマルタ・アルゲリッチと協演する水戸室内管弦楽団=5月14日、水戸芸術館、大窪道治さん撮影(同館提供)

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